アスペルガー症候群という診断はもう使わないのですか?

よく、この質問を受けます。DSMというアメリカ精神医学会の診断基準が2013年にIV-TR(第四版)から5(第五版)に改訂されて、アスペルガー症候群(アスペルガー障害)という分類はなくなり、従来の自閉症(自閉性障害)も含めて自閉スペクトラム症に統一されました。ただ、この定義はアメリカ精神医学会の診断基準であり、アメリカ以外の国の対応はさまざまです。英国では現在も多くの機関でアスペルガー症候群という診断名も使われます。私自身もアスペルガー症候群という診断名を現在も用いることがあります。なお、厚労省が採用しているICDというWHOが規定している診断基準では、現在ICD-10 (第10版)ですが、ICD-10ではアスペルガー症候群という用語が使われてます。

自閉症スペクトラムとは

 英国の児童精神科医ローナ・ウイングは自閉症スペクトラムを社会性、社会的コミュニケーション、社会的イマジネーションの3つ組の障害と定義しました。ここでは、ウイング先生の概念にそって自閉症スペクトラムを解説します。

 

1)社会性の障害

 同年代の他者と相互的な交流を行うことが困難なことが基本的な特性である。幼児期には他者の存在への無関心、人より物への興味の強さで表現されることが多い。学童期以降には親密で対等の関係を友人と構築することの困難さが特徴である。ASDの人たちの社会性は発達しないわけではなく、ゆっくりと発達し、変化していく。また、知的に高い人たちは、これまでの経験をもとに自分で特性が目立たないようにカバーしていることも多い。

 

2) 社会的コミュニケーションの障害

 コミュニケーションには、表出(話すことや表情・仕草などで表現する)と理解(聞くことや相手の表情や仕草をみる)がある。対人場面におけるコミュニケーションは、そうした表出と理解の両方が円滑かつスピーディに行えることで成立する。

 “表出”には、言葉以外に身振り手振りなどのジェスチャーも含まれる。そうした表出全般に偏りが生じうる。ASDの人のコミュニケーション障害はコミュニケーションの発達が遅れが本質ではなく、社会的場面でのコミュニケーションの方法が独特であるのが特徴である。例えば一見流暢に話し、専門用語や四文字熟語などを多用する人でも、意味を十分に理解せずに使用していることがある。音程や抑揚、早さ、リズムに偏りがあり話し方が単調であったり、リズムが不自然だったり、自分の好みのことを一方的に話し続けることや相手の言葉をそのまま繰り返してしまうといったこともコミュニケーションの方法の偏りである。

 “理解”については、言葉を字義通りに受け取ってしまう、言葉の裏を読むことが苦手、相手の発した言葉の中で自分の気になった部分のみに着目してしまうといった偏りがある。

 

3)社会的イマジネーションの障害 

 ものを並べる、特定の物を集める、変化を嫌う(同じ行動を繰り返す)などの“こだわり”と言われる行動は、イマジネーションの障害が背景にある。次に起こることを想像することが難しく、自分なりに見通しを持つことが出来ないため、同じパターンを繰り返し行うことで安心しやすい。また、自分の好みの物を集めることや揃えることを好んだり、せっかく集めても、それを本来の目的ではなく、たた蒐集することだけで満足することもある。

目に見えない物(イメージ)の共有は苦手なことが多いが、そこに具体的な実物、写真、絵、文字などの情報が見える形であると、イメージを他者と共有しやすくなるのが特徴である。

 

4)感覚の特異性 

ASDは上記の3つ組の障害で定義される。ASDにおいては、“感覚”刺激への反応に偏りがあることが多く、聴覚、視覚、味覚、臭覚、触覚、痛覚、体内感覚などすべての感覚領域で鈍感さや敏感さが生じうる。

・聴覚:ある音には敏感に反応するが、別の音には鈍感であるなど、音源の種類によっても反応が異なることが多い。工事現場や花火の音、車の走る音に対し苦痛を感じ耳をふさぐ子どもが大声で話しかけられても全く気がつかないということもある。

・視覚:手をかざしたり、横目をしてみたり、特定の視覚刺激を恐れるなど、視覚的な刺激に対する独特の感じ方がある。ミニカーを走らせて楽しむよりも、タイヤの回る部分に注目して見ることに熱中し、横目で物を見る感覚刺激を求めるなどの行動がみられることが多々ある。隙間からものを見ることを好む人もいる。

・味覚:味、温度、固い食べ物、舌触りなどに過敏であったり、逆に鈍感だったりする。

臭覚:香水、消毒の臭い、体臭など特定の臭いを極端に嫌がったり、逆に人や物の臭いを頻繁に嗅ごうとすることもある。

触覚:人から触られることを嫌がったり、軽く触られただけでも叩かれたように感じ、怒り出す人もいる。特定の感覚刺激を好む場合もあり、自分で頭を叩くなどの自己刺激行動を起こすこともある。

温冷感覚 暑さ寒さに鈍感で低温火傷になったり、少し暑いとクーラーをつけることに固執することがある。

 これらの感覚の特異性については、ストレスが高まったときにより強く出ることもある。わがままと受け取られがちだが、感覚情報処理の偏りとみなして対処する必要がある。

 

Copy Right 内山登紀夫